ボロ宿へのあこがれ
2019年、テレビ東京で放送されたドラマ『日本ボロ宿紀行』(原案は書籍)は、古い温泉宿が好きなマニア心をくすぐる良ドラマだった。キャストの深川麻衣と高橋和也の、マネージャーと売れない歌手という役での掛け合いも楽しくて、その後、配信でも2回リピート視聴してしまった。
「ボロ宿」のくくりには、年月を積み重ねた歴史的価値のある古い宿から、単に安くて見た目も本当にボロい宿までが含まれていて、私自身、過去に「ちょっとこれは無理かも」というレベルのボロ宿に遭遇したりしたものだが、今回の旅の目的である瀬見温泉の「喜至楼」は、ボロ宿と呼ぶには恐縮してしまうくらいの、歴史的価値の高い温泉旅館なのである。いつか足を運ぼうと思っていた、あこがれの温泉旅館だ。
そして今回、JR東日本の「週末パス」が2025年6月27日に終了するのにともなって、なんとかギリギリまでセコ旅で使い倒してやろうという魂胆で、前回の福島(磐梯熱海~会津若松)から新潟(新津)への旅に続き、今回は山形から宮城への鉄道旅を計画したわけなのである。
まずは高畠駅の駅ナカ温泉に立ち寄り、瀬見温泉「喜至楼」に宿泊。2日目は鳴子温泉に立ち寄って帰京する…という、観光や食には目もくれず、ただ温泉だけを楽しむ行程だ。
「週末パス」の廃止は、前回の新津温泉、そして今回は喜至楼…と、そのうちのんびり行こうと思って先送りにしていた場所を訪れるきっかけを与えてくれることになったわけだが、やはり、きっぷの廃止は残念だし、寂しいかぎりだ。
まずは駅ナカ温泉の高畠駅へ
東京駅を出発し、新幹線指定席でまずは高畠駅へ。新幹線の旅は、セコ旅という方針からは逸れてしまうし、移動の道中も味気ないけど、時間を有効活用するために、背に腹はかえられない。何せ、この日は途中下車で温泉にひとつ浸かり、さらに瀬見温泉まで移動しなければならないのだから。
高畠駅に到着すると、あいにくの雨模様だったが、ノープロブレムだ。なぜなら、駅舎から一歩も出ずとも、温泉に入れるし、ランチも食べられるのだから。改札から出て徒歩5秒で温泉の入り口に到着だ。何なら改札から出て5分後には素っ裸だ。
高畠駅は、駅舎の中に温泉施設があるのかと思っていたのだが、よくよく調べてみると、「太陽館」という温泉付きのコミュニティ施設に駅舎機能が備わっている…という記述がしてある。ということは、温泉付きの駅舎なのではく、駅舎機能付きの温泉コミュニティ施設なのだった。まあ、どっちががどっちでも、そんなことはどうでもいいとは思うのだが、どっちがどっちかを気にし始めたら、止まらなくなってしまった。
お湯は、少し肌がスベっとする泉質。サウナや水風呂もあり。
湯上がり後、次の新庄行きの列車を待つ間に、館内の焼肉レストランでひとり焼肉ランチ。結局、「太陽館」の外観を撮影するのにちょっと外に出ただけで、ほぼ館内で用事を済ましてしまった。
文化財級の旅館建築!念願の「喜至楼」に宿泊
高畠駅をあとにして、ローカル線で新庄駅まで移動。新庄駅から瀬見温泉を目指すには代行バスになる。2024年夏の大雨で線路に土砂が流れ込んだ被害によるもので、新庄駅から鳴子温泉の区間が復旧していない(2025年6月現在)。40分ちょっとの乗車で瀬見温泉駅に到着。
そして、ここからは写真多めである。なぜなら、古い旅館建築にテンション上がりまくりだからだ。
チェックインを別館で済ませ、部屋のある本館に移動しがてら、だんだんテンションが上がってきてしまい、部屋に荷物を置く前に館内探検を始めてしまった。いい年をして、いったい何をしているんだと思わないでもないが、ここは本能に従って行動だ。
喜至楼の最大の魅力は、やはり、その独特の旅館建築。重厚感のある本館玄関、階段が入り組んだ迷路のような空間、ほの暗い廊下…そして、館内の壁などには歴史を感じる凝った意匠が施されていて、それらを探しているだけでも飽きない。
建築当時の雰囲気をそのまま残しているので、館内にエレベーターがない(バリアフリーを求める方には難しいですが…)、部屋にエアコンがない、トイレや洗面台は共同…といった不便さはあるものの、それがかえって喜至楼の持つ歴史的価値とレトロな雰囲気を際立たせている。
建物は古いとはいえ、館内の清掃は行き届いているし、部屋も壁などはきれいに塗り替えられていたので、清潔感という点ではまったくストレスがない。とても大切に使われてきたのだなあ…と思う。
温泉も複数楽しめる。メインは、円形の広々とした空間に中央の円柱から源泉が注がれる「ローマ式千人風呂」。どのあたりが「ローマ」なのかとか、本当に千人も入れるのかとか、そういうロマンの無いツッコミは野暮だからやめてほしい。
もちろん、同時に千人も入れるわけではないが、とても広々していて気持ちが良い。天井も高いのが良い。源泉は超高温で、2キロ離れた沢の水を使って温度調整しているということなので、雨が降ると濁る。そして、この日は雨が降っていたので、濁っていた。
一応、今でも混浴風呂という体裁だが、男女専用に分かれる時間帯も設けられているので、女性は専用の時間に入り、あとはほぼ男性が使っている…ということのようだ。
あたたまり湯…通称「オランダ風呂」は、ヨーロッパの温泉地を模して造られたという。どのあたりが「オランダ」なのかとか、これまた野暮なツッコミはご遠慮願いたい。こちらはこじんまりとした風呂で、お湯の温度は高め。他にも、源泉の蒸気を体の温めたい部位に直接浴びる「ふかし湯」といった、ちょっと変わった「温泉」もある。
今回の喜至楼の宿泊は2食付きで予約(周囲で食事できる場所があるのか不明だった)。派手さはないものの、地元の食材を活かした料理なのだろう。鮎の塩焼きや、モクズガニを使ったお鍋など、素朴な品々が並んでいた。
宿の目の前を流れる小国川沿いには、「薬研湯」という露天風呂がある。丸見えである。
お湯は超高温なので、とてもじゃないが、このままでは入れない。川の水で加水しないと、大惨事になること間違いなしだ。というか、この湯に浸かろうという猛者はいるのだろうか。
瀬見温泉「喜至楼」の滞在を満喫し、次の目的地である鳴子温泉を目指す。
ここでも鉄道は不通区間となっているので、代行バスでの移動となる。瀬見温泉駅の背後は山で、鉄路は緑の向こうへと続く。ぜひ列車旅をしてみたかったものだ。
日帰り湯には困らない鳴子温泉
最後の目的地である鳴子温泉に到着したのは、ちょうどお昼時。
昼食の前に日帰り温泉にでも浸かるつもりでいくつか候補を探し、やって来たのは、温泉街の東の外れにある鳴子旅館。駅近くにも共同浴場があるのだが、以前に入ったことがあるし…と、今回は旅館の日帰り湯を利用。まったく駅前温泉ではなくなってしまった。
鳴子温旅館の日帰り湯の利用は500円。こうしたこじんまりとした旅館の日帰り湯の良いところは、有名な共同浴場と違って空いていて、独り占めできる可能性が高いこと。それから、湯船も大きくないので、源泉かけ流しであれば新鮮なお湯が循環していること。旅館の日帰り湯は、意外に穴場だったりする。
昼食は「たかはし亭」で鳴子焼きそばおくずがけ。
いわゆる「焼きそば」ではなくて、蕎麦を焼いたもの。そこにキノコ類たっぷりのあんかけ。これがとても合っていて、美味しかった。
お店は、高橋さんという医師の旧宅だったものを利用しているとのこと。明るい縁側が開放感があって気持ちいい。
昼食を食べ終わり、今回の駅前温泉旅も終わり。鳴子温泉駅から古川駅まで移動し、帰路は新幹線「やまびこ」自由席で帰京。何なら、6月末までに、あと1回は「週末パス」の旅をねじ込んでやろう…。
今回かかった交通費
・JR東日本「週末パス」: 8,880円
・東京から高畠まで 新幹線指定席: 4,820円
・古川から大宮まで 新幹線自由席: 4,300円






























































