ハノイに麺だけ食べに行く。

週末アジア旅
Bún ốc cô Huệ

「ぶらり」への憧れ

週末アジアぶらり旅である。
「ぶらり」とか言ってしまったが、場所がどこであれ海外に行くとなると、航空券を手配したり、あれやこれやと準備したり調べたり、国内旅行とは勝手も違うので、実はそれほど「ぶらり」感はない。「ぶらり」という言葉の響きには「旅に慣れてる感」があるので、つい、使ってみたくなってしまうが、私が週末にちまちまとアジアあたりに出かける際は、むしろ、けっこう計画を練っている。練りまくっている。何かのインスピレーションが降ってきたかのごとく、思い立って「ぶらり」と行くわけではない。
ましてや、セコ旅である。旅の回数を増やすべく、いかに1回の旅費をセコくおさめるかということが大事なので、航空券の手配の段階で、何ヶ月も前から計画を練っている。練りすぎるくらいに練りまくって、価格を吟味している。
世の中で行われている「ぶらり旅」は、もしかしたら本当に「ぶらり」なのかもしれないが、実際のところ、「ぶらり旅」における「ぶらり率」がいかほどのものなのか…というのは、かねてからの疑問だったりする。
世の中にある「ぶらり」への羨望。「ぶらり」という言葉への憧れ。私も例外なく、その一人なのだ。

だらだらと長い前置きになったけれど、今回は2泊4日の「ハノイ米麺ぶらり旅」だ。ここはあえて「ぶらり旅」と言ってしまおう。言い切ってしまおう。
米麺が好きな私にとって、米麺といえば、やはりベトナムである。ハノイの旧市街を歩いていると、米麺を使ったローカル食堂がたくさんあって、米麺料理のバリエーションがなんと豊富なんだろうと、感動すらしてしまう。
ここでは、日本ではポピュラーな「フォー」は外して、3日間、ひたすら米麺を食べ続けるべく、米麺料理のお店を「ぶらり」してみたいと思う。

カニのすり身入り麺、ブンリュウクア

ブンリュウ(Bún riêu)は、トマトの酸味の効いたスープに、ブンという細い麺を入れたもの。ここに淡水の田ガニ(cua)のすり身を入れたものを、ブンリュウクア(Bún riêu cua)と呼ぶ。淡水のカニの入った料理なんて、日本ではなかなかお目にかかれない。ハノイの旧市街の路上の朝市を歩けば、この小さな田ガニをすりつぶしている光景を見ることができる。
やって来たのは、Bún riêu cua Hàng Bạcというお店。間口がめっちゃ狭い。細長い店内は、席の数も少ない。そして美味しい。

酸味の効いたタニシ麺、ブンオック

これまたトマトの酸味の効いた、ブンを使った麺料理。具材には ốc =巻き貝(食用タニシ)を使ってあるので、ブンオック(Bún ốc)と呼ぶ。タニシだなんて、これまた日本ではお目にかかれない。というか、タニシを初めて食べたのは、ここハノイだった。
ハノイの人は、貝が好きなイメージがある。旧市街の ốc 料理のお店も、地元の人らと思しき人だかりですごく繁盛していた。みんな、ひたすらタニシをほじって食べている。私がひとりでタニシデビューをするのはハードルが高そうだな…ということを痛感せざるをえなかった。
そして、私が朝食を食べたのは、Bún ốc cô Huệというお店。朝ごはん時は地元の人らで繁盛していた。メニューを見てもよく分からないので、ネットで探した写真を見せながら「全部乗せ」っぽいものを頼んだ。写真のメニュー表で、たぶん「4」のものだ。「nóng」は熱いスープ、「nguội」は冷ましたスープを示している…と思う。
ぷりぷりのタニシと、タニシの入ったすり身の揚げ物で具がたくさん。タニシの独特の風味と、トマトの酸味がとても合う。そして、ピリッと辛くて、食べているうちに額に汗をかいていた。

ベトナム版つけ麺、ブンチャー食べくらべ

ブンチャー(Bún Chả)は日本のベトナム料理屋でもよくお目にかかる麺料理。甘酸っぱいつけ汁に、ブンやパクチーをからめて食べる。つけ汁には焼いた豚肉が入っていて、これまた旨味があって美味しい。
私はブンチャーが好きなので、2つのお店をハシゴした。ハシゴ酒ならぬ、ハシゴブンチャーだ。

Bún Chả Nomは、地元の人らで賑わうお店。地元の人が集まるお店にハズレなし…かどうかは分からないが、つけ汁も焼いた肉も美味しい。閉店が早いローカル店が多い中で、夜遅くまで営業しているのも助かる。ハノイの人も、締めのラーメンならぬ、締めのブンチャーってあるのかな。

もう1店、Bún Chả Đắc Kim(ブンチャー ダックキム)は、旅行ガイドにも掲載されるような有名店。なので、ここで食べている観光客の姿も多い。味も間違いない。

きしめん?幅広のカニ汁麺、バインダークア

バインダークア(Bánh đa cua)は、港町ハイフォン発祥。麺は赤茶色の平麵で、日本でいうと「きしめん」みたいな感じだ。4年前、わざわざハイフォンまでバインダークアを食べに行って、その濃厚な美味さに感動してしまった記憶があったので、ハノイでもバインダークアを食べることができないかと、探した次第。
初めて食べた時の美味しさの思い出は美化されがちなので、今回は感動がよみがえるというほどではなかったけれど、十分に美味しい。次は汁なし麺も食べてみたい。

タケノコと肉団子入りのブン

最後は、珍しい(と思う)タケノコ入りのブン。日本で食べるタケノコと食感も同じだ。馴染みの食材が混ざっていると、ホッとした心地になる。何かのすり身の肉団子もたくさん入っていて、けっこうお腹がいっぱいになる。あっさりした味付けなので、個性的な味付けに舌が疲れた時にちょうど良い感じ。

Quán Bún Thủy

3日間、ひたすら米麺を食べる…と書いたが、すみません、私は嘘をついてしまいました。
ハノイを離れる最後の日に選んだ食事は、バインミーなのだった。
米麺ばかりを食べていた私は、味がどうこうというよりは、たったの3日で食感に物足りなさを感じないではいられなくなっていた。ずっとフニャフニャした食感のものを食べていたせいで、固いものが食べたくなってしまったのだ。
そこでバインミーだ。固めのパンだなんて、最高ではないか。人間、柔らかいものばかり食べていてはダメなのである。

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