【青春18きっぷ・長野編】棚田と温泉と8月の無言館(後編)

棚田と温泉と無言館 お得なきっぷ旅

別所温泉から無言館へ

2日目は、今回のセコ旅のメインの目的である無言館へ。戦没した画学生の作品や遺品を展示している美術館だ。訪れるのは3度目であり、前回訪問したのは5年前くらいだったか。何年かおきに足を運びたくなる場所だ。
私自身、常日頃から世界平和を想っているような立派な人間ではなく、どちらかといえば日常の雑事や雑念に埋もれて何となく日々をやり過ごしてしまうような人間なのだが、それだからこそ、たまに身も心も正したくなるのかもしれない。無言館は、そんな私の背筋を伸ばしてくれる場所でもある。

無言館に公共交通機関で行くには、別所温泉発、あるいは下之郷駅発の「信州上田レイライン線」が便利だ。別所温泉の宿をチェックアウトして、9時50分別所温泉発のバスに乗り込んだ。

信州上田レイライン線
別所温泉のバス停。2日目の旅の起点。

同乗する人もなく、私ひとりを乗せたバスは出発し、20分弱くらいで目的地の無言館へ到着した。バスを待っている時には空を覆っていた薄い雲も、無言館に到着する頃には晴れ間が広がって真夏の日差しが照り付け、昨日に続いて、もう、暑いったらありゃしないのだった。

  • 無言館
  • 無言館
  • 無言館

バスを降りて、塩田平を見渡せる芝生広場の奥に、無言館へと上っていく坂道がある。まず第二展示室があり、さらに上ると本館がある。木漏れ日の道の向こうの、コンクリート打ち放しのシンプルな建物は、あたかも教会のようなたたずまいだ。
正面のドアは入り口専用で、ドアを開けると入館料を払う窓口のようなものはなく、いきなり戦没画学生たちの画が迎え入れてくれる。私語をためらわせるような、静かで厳粛な空気に包まれ、静かに画と対峙する時間だ。入館料は出口で支払う仕組みになっていて、同じチケットで第二展示室も観覧が可能だ(第二展示室も出口でチケット確認がある)。
無言館の画のことを知るには、「無言館ノオト 戦没画学生へのレクイエム」(集英社新書)がガイド本としても分かりやすく、無言館建設や画の収集などの足取りは、自伝的要素も少し混ざったエッセイ「無言館 戦没画学生たちの青春 」(河出文庫)が良いかもしれない(いずれも館主・窪島誠一郎氏の著作)。

第二展示室を出て、芝生広場へと戻る。高台のこの場所からは、夏空の下の塩田平を見渡すことができた。
真夏の日差しに照り付けられながら、そういえば今日は広島に原爆を落とされた日だったな、ということを思い出した。

無言館
塩田平を見渡す場所にある芝生広場。公園の遊具もあるので、週末の晴れた日には家族連れが遊びにやって来る。

無言館をあとにして、徒歩で「残照館」にも寄ることにした。
ここは前山寺の参道に隣接して建っていて、もともとは「信濃デッサン館」として、窪島誠一郎氏のコレクションから夭折の画家たちのデッサンを中心に展示していた場所だった。しかし、窪島氏自身の老いにともなう心境の変化によって、コレクションの大部分は長野県立美術館へ寄贈され、現在は窪島氏の手元に残された作品を展示し、土・日・月曜日だけ開館している。カフェも併設しているので、休憩にもちょうどいい。

  • 残照館

残照館を見終えて、前山寺バス停からシャトルバスで下之郷方面へと向かう。そしていったん上田駅へ出て、今夜の宿の戸倉温泉へと向かうことにした。

【別所温泉→無言館→上田 780円】
9:50発 別所温泉 バス・信州上田レイライン線(200円)
10:07着 無言館
14:02発 前山寺 バス・信州上田レイライン線(200円)
14:13着 下之郷駅
14:24発 下之郷駅 別所線(380円)
14:40着 上田駅 

国楽館 戸倉ホテルはボロ宿っていうほどボロくない?

上田駅からこの日の宿泊地までは、バスとの接続のタイミングを逃すといろいろと致命的なので、私の緻密すぎる乗り換え計算で少々慌ただしい移動となったが、これもセコ旅の宿命であるから、まあ、仕方がない。逆に言うと、接続タイミングの最適解を見つけた時は、自分は天才なのではないかと錯覚することもある。

【上田→戸倉→戸倉温泉 540円】
14:44発 上田 しなの鉄道・長野行(340円)
15:01着 戸倉
15:10発 戸倉 千曲市循環バス 上山田線(200円)
15:15着 上山田温泉入口

戸倉駅前で待っていた千曲市循環バス(マイクロバス)に、同じく温泉街に向かう二組の乗客と乗り込んだ。地方の小さな都市のこうしたバスは、平日と土休日では運行の有無が異なることがあるので、下調べが重要だったりする。
戸倉温泉と上山田温泉と名前は違えど、地理的にはほぼ同じなので、宿に近い上山田温泉入口で下車。バス停を下りた目の前が、ファミリーマート駐車場敷地内の足湯だった。さすが温泉街のコンビニは一味違うぜ!という足湯に入りたい気持ちを抑えて、この日の宿である「国楽館 戸倉ホテル」へと向かった。

上山田温泉
上山田温泉入り口バス停で下車すると、ファミリーマートと足湯施設。

「国楽館 戸倉ホテル」は、ドラマ『日本ボロ宿紀行』8話にも登場した、憧れのボロ宿だ。
重厚な造りの玄関を写真に収め、ふと目を上げると、笛を吹く天女のような木彫りがあるではないか。おおっ、これと似たような彫刻を京都の平等院鳳凰堂で見た気がするけど、もしかしたら似て非なるものかもしれない。手に持っているのは笛ではないかもしれないし、羽のようなものが生えているけど羽ではないかもしれない。と、まあ、そんな感じで勝手に期待感を膨らませながら、玄関を入ると薄暗かった。到着が早かったせいだろう。

すると、おかみさんらしき人が現れて、「暗くてごめんなさい」と電気をぱちぱちと点けながら部屋まで案内をしてくれた。いえいえ、こちらこそ、早く到着してしまってすみませんと恐縮してしまう。

  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル

ところどころ傷みはあったりするものの、ボロ宿っていうほどボロくもなく、昭和の薫りが漂う年季の入った宿だった。もっとボロい宿に遭遇したことのある私には、ノープロブレムなレベルである。むしろ、ボロさの中にゆるさが調和して、リラックスしてしまうくらいだ。

  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル
  • 国楽館 戸倉ホテル

さて、肝心の宿の温泉であるが、洗い場も湯船も広くはないものの(3人までが適正なくらいの広さ)、ほんのりと硫黄の香りがするお湯はなかなか気持ちが良かった。到着後、就寝前、朝風呂…と滞在中に3回ほど入ったが、たまたま他の宿泊客と一緒になることもなく、貸し切り状態でのんびりできたのはとても良かった。
夕食については、派手さや豪華さはないものの、煮魚、煮物、てんぷら、蒸し焼きの肉、刺し身少々…と、家庭的な味付けで箸が進み、量も十分なものだった。

散歩がてら「おやき七福」でちょい飲み

宿での夕食後に少し休み、散歩がてら温泉街を歩くことにした。
上山田温泉といえばスナック街…と聞いていたのだが、もともと寂れていたいた温泉街にコロナ禍が追い打ちをかけ、閉業した店が多いせいか、灯りが消えている店舗も多かった。

  • おやき 七福
  • おやき 七福
  • おやき 七福
  • おやき 七福
  • おやき 七福
  • おやき 七福

やってきたのは温泉街の奥の方にある「七福」。長野のローカルフードである「おやき」をお手頃な値段で食べさせてくれるお店だ。食べ物メニューはシンプルに、おやき・餃子・シュウマイ・中華そば。だけ。それからアルコールなどの飲み物。夕方から営業していていて、一人でも入りやすく、ちょい飲みには最適なお店だ。
すっかり食べすぎて満足し、温泉街を夜風にあたりながら宿へと戻る。昼間の暑さは関東と変わらないものの、夜はけっこう涼しく、気持ちが良い。これくらいの気温ならば熱帯夜で寝不足に悩まされることもないのにな、と思うのだった。

旅の終わり、姨捨から東京へ戻る

【戸倉温泉→姨捨→新宿 5,040円】
9:31発 上山田温泉入口 千曲市循環バス おばすて棚田・温泉観光便(200円)
9:42着 JR姨捨駅
10:02発 姨捨 JR篠ノ井線・松本行 4,840円
10:58着 松本
11:40発 松本 JR篠ノ井線・甲府行
13:47着 甲府
13:52発 甲府 JR中央本線・高尾行
15:24着 高尾
15:32発 高尾 JR中央線中央特快・東京行
16:14着 新宿

3日目の朝は、朝食後にゆっくりと温泉につかり、短い旅の終わりの1日が始まる。
この日は18きっぷを使って東京都内へと戻るだけだ。戸倉駅から電車を使って帰る…というのがオーソドックスな手段なのだが、日曜日は千曲市循環バスの「おばすて棚田・温泉観光便」が運行しているので、これを使うと10分ちょっとで姨捨駅までショートカットできるので効率が良い。「おばすて棚田・温泉観光便」を発見した自分自身に、感謝の言葉を贈りたいくらいである。

帰路の行程は、松本駅での約40分の乗り継ぎ時間を逃すと食事をするタイミングを逸してしまうため、昼食には早かったが、来た時と同じく駅前の「小木曽製粉所」でささっと蕎麦をすする。それから、おみやげ数種類をぱぱっと買って、甲府行きの列車へと乗り込んで信州を後にしたのだった。

【今回の旅の交通費】
12,610円 (内、青春18きっぷ×2回利用分 9,920円) 

※本記事は2022年8月の情報を元に記載しております。

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